入浴中の急死の多くは虚血性心疾患(心臓疾患)等の循環器系疾患であると考えられてきました。
特にきちんとした調査もなく保険の対象外とされ、せっかく長年故人が家族のために支払ってきた保険が役に立たないといった事例が数多く発生しているものと推測されます。
このことに疑問を感じたある遺族の訴えに、大阪地裁は画期的な判決を下しました。
私たち(弁護士吉岡・立野)は、お風呂で入浴中に溺れて死亡したことについて、保険会社側が、既往症を原因とする虚血性心疾患を発症したことにより溺水して死亡したものとして、いわゆる疾病免責条項を適用して保険金を不払いにしたことに対し、平成24年1月20日、不当な保険金不払いとして保険会社を相手に提訴しました。
平成26年6月10日、大阪地方裁判所堺支部は、保険会社側の主張は溺水した原因の一つの可能性を示したにすぎず、本件では溺水した原因を特定することは困難で、疾病免責条項を適用することはできないとして、遺族らの保険金請求を全額認容する全面勝訴判決を下し、確定しました。
そして、同事件と併合され、一緒に審理されていた事件(受取人・請求者が別でした)についても、平成27年5月1日、大阪高裁は、生命保険金の請求者側の全面勝訴判決を下しました。
■同事件の報道記事はこちら
朝日新聞 2015年5月2日朝刊 ※会員登録が必要です。ご覧になれない方はこちらのPDFをご覧ください。
我が国では、お風呂で入浴中に急死をするケースは年間1万4000人に及んでおり、交通事故による死亡よりはるかに多いと言われています。一般に、高齢者が入浴中に急死をした場合、その多くは虚血性心疾患(心臓疾患)等の循環器系疾患であると考えられてきました。
そのため、保険会社が十分な調査を尽くさないままに、安易にお風呂での溺死の原因を虚血心疾患であるとして、免責疾病条項(本人の病気を原因とした場合に保険の支払いを免責とする条項)を適用して保険金を不払いする、というケースが発生し、本件もまさにそのケースでした。
これまで、入浴中の急死についても保険金請求者側を勝たせた裁判例は存在しましたが、その多くの事案は虚血性心疾患に結びつく糖尿病や高血圧症等の既往症がほとんどなかった事例です。
これに対して、本件では高血圧症や糖尿病等、虚血性心疾患に結びつきうる既往症が存在した事例でした。死体検案書にも、溺死の原因として、「虚血性心疾患」と記載されていました。
しかし、私達は、既往症は重度のものではなく、高齢者の入浴中の急死が虚血性心疾患によるとする根拠が極めて弱いものであり、入浴中の急死は健常者であっても熱中症による意識障害等によって起こるものであること等を、医療記録、専門家の意見書及び統計報告等によって丁寧に主張立証しました。
裁判所は、既往症の有無・程度、統計報告の内容、入浴中の急死の医学的機序に関する学説等を丁寧に認定した上で、死因の多くを虚血性心疾患とする従来の診断の正確性には疑問を呈して、本件でも安易に虚血性心疾患と認めることが妥当でないとし、さらには、入浴中の機序を熱中症等による意識障害という上記の熱中症説を「合理的な見解」と認定し、最終的に、本件では溺水した原因を特定することは困難であり、本件では免責疾病条項は適用されないという判断を導きました。
本件は、高齢者の入浴中の急死について安易に虚血性心疾患として保険金を不払いにしてきた保険実務に対する重大な警鐘となります。特に、たとえ既往症があっても熱中症の可能性が合理的に認められるとする点で画期的であり、保険実務に根本的な転換を迫るものと考えます。
また、本判決を前提にすれば、最高裁判例上、疾病免責条項の「疾病」の立証責任は保険会社側にありますので、保険会社側が熱中症等の機序の可能性がないことを個別具体的に立証する責任を負うことにもなります。この点からも、本判決は、本件と同様の理由で保険金が不払いにされた事案の多くで、法的に救済しうる可能性を示すものといえます。その意味でも今回の判決の保険実務におけるインパクトはとても大きいものといえます。
最高裁判例上、お風呂での死亡の原因が心臓疾患や脳疾患であることについては、保険会社側に証明する責任があります。つまり、心臓疾患等を発症したかどうか不明な場合は、保険会社に支払義務が生じるのです。
そして、今回の判決が示したように、心臓疾患等と親和性のある既往症(糖尿病、高血圧症)があっても、死亡状況等から、熱中症の可能性が残る場合があります。これは、死体検案書に「虚血性心疾患」と書かれていても同じです。
今回の判決が出たこともありますので、お風呂での急死の場合に、保険会社から、生命保険金等の支払いを拒絶されても、支払いを求めることができる可能性があります。あきらめずに、一度当事務所にご相談ください。
私たちは、従来の保険会社の取扱いは非常に問題があったと考えておりますので、そのような相談である限り、無料の電話相談、初回面談に応じたいと思います。